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福岡高等裁判所 昭和56年(ネ)92号 判決 1981年7月16日

昭和五五年(ネ)第六七〇号事件控訴人

福岡県

昭和五五年(ネ)第六八八号事件控訴人

西日本鉄道株式会社

昭和五五年(ネ)第六七〇号・

西頭和男

昭和五五年(ネ)第六八八号事件被控訴人

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人らの各自被控訴人に対し、金七五〇万九五八二円およびうち金六七〇万九五八二円に対する昭和五三年三月二八日から、うち金八〇万円に対する昭和五五年一〇月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二1  被控訴人は控訴人西日本鉄道株式会社に対し金二三二万〇六二〇円およびこれに対する昭和五五年一〇月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人西日本鉄道株式会社のその余の申立を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを七分しその四を被控訴人の負担としその余を控訴人らの連帯負担とする。

事実

一  昭和五五年(ネ)第六七〇号事件控訴人福岡県(以下、単に控訴人県という。)は、「原判決中控訴人県敗訴の部分を取消す。被控訴人の控訴人県に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、昭和五五年(ネ)第六八八号事件控訴人西日本鉄道株式会社(以下、単に控訴人西鉄という。)は、「原判決中控訴人西鉄敗訴の部分を取消す。被控訴人の控訴人西鉄に対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、当審における民訴法一九八条二項の申立として「被控訴人は控訴人西鉄に対し金一〇六九万九六九〇円およびこれに対する昭和五五年一〇月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求めた。

被控訴人は、「控訴人らの本件各控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求め、当審における控訴人西鉄の民訴法一九八条二項の申立に対し、申立棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上、法律上の陳述および証拠関係は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(一)  本訴請求について

1  原判決四枚目裏一一行目の「機能」から同五枚目表四行目の末尾までを次のとおり改める。

「その左右両肢の各大腿部に植皮による醜状痕が残り、これがそれぞれ自賠法施行令に定められた後遺症等級別表第一二級一三号「男子の外貌に著しい醜状を残するもの」に該当するものとされ、両肢の右各後遺症を併合して一級繰上げられ、第一一級該当と査定されたことによるものである。右醜状が労働能力になんら影響のないものであることはいうまでもない。

被控訴人の下肢膝関節に残つた機能障害の程度は、屈曲左一二〇度(患側)右一五〇度(健側)に過ぎず、これは機能障害の認定基準の上・下肢の三大関節の単なる障害「関節の運動可能領域が健側の運動可能領域の四分の三以下に制限されているもの」に該当しないから、自賠法施行令所定の後遺障害のいずれにも該当せず、したがつて、被控訴人の右機能障害は、労働能力の一部の喪失として補償の対象とはならないものである。

仮に、被控訴人が、膝関節の機能障害により稼働能力に若干の支障を来しているとしても、その労働能力喪失割合は五パーセント以下に過ぎず、さらに、その労働能力の喪失率が全稼働可期間に亘り同一割合によつて継続するものではなく、年月の経過とともに漸減して来るものである。」

2  原判決六枚目表六行目の末尾に続いて次のとおり付加する。

「また、坂本は、急訴を受けて本件事故発生地点にパトカーを停車させ緊急の措置として関係者からの事情聴取、負傷者の負傷の程度の確認等をなし、これを了えてパトカーに戻ろうとしたときに本件事故が発生したものであるから、坂本は、一般人から急訴を受けた警察官として、緊急止むをえざる措置として、本件事故発生地点にパトカーを停車させたまま職場の遂行にあたつていたものというべく、その職務執行になんら不当な点はないから、坂本に過失があるとすることはできない。」

(二)  当審における控訴人西鉄の民訴法一九八条二項の申立について

1  控訴人西鉄の主張

(1) 被控訴人は、控訴人西鉄に対し金九五五万四九一九円及びうち金八七五万四九一九円に対する昭和五三年三月二八日から、うち金八〇万円に対する昭和五五年一〇月三〇日から各完済まで年五分の割合による金員の支払を命じた原判決の仮執行宣言に基き、昭和五五年一〇月二九日金一〇六九万九六九〇円を強制執行により控訴人西鉄から取立てた。

(2) よつて、控訴人西鉄は、被控訴人に対し、民事訴訟法一九八条二項に基く仮執行の原状回復として、前記強制執行により取立てられた金一〇六九万九六九〇円およびこれに対する右取立の日である昭和五五年一〇月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被控訴人の答弁

控訴人西鉄主張(1)の事実は認める。

(三)  証拠関係〔略〕

理由

第一  本訴請求について

一  当裁判所は、主文第一項記載の限度において被控訴人の本訴請求を正当と判断するものであり、その理由は次のとおり付加し、改めるほか原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

1  原判決七枚目表二行目の「証人」の前に「原審における」を挿入し、「坂本」の前に「当審における証人古川啓輔、原審および当審における証人」を挿入する。

2  原判決九枚目表四行目の「停車」の前に「一時」を挿入し、同五行目の「しかしながら、」を次のとおり改める。

「前掲各証拠によれば、訴外坂本において、警察官として直ちに犯人逮捕、犯罪の予防、鎮圧等の職務行為に出なければならないようなさし迫つた情況ではないことは、同人が車外に出て関係者から事情聴取をするまでもなく明らかであつたものと認められ、してみれば、訴外坂本のなした関係者からの事情聴取行為は、パトカーを事故発生の危険性のある同位置に置いたまま行わなければならぬほど緊急性の高いものであつたものとは到底認め難く、したがつて、いわゆる警察官としての緊急の職務執行を理由に同法三条但書の免責事由があるとすることはできない。訴外坂本において、警察官としての職務上、関係者から直ちに事情聴取をすることが必要であると考えていたとしても、」と改める。

3  原判決九枚目裏九行目の「乙第一号証、」の次に「第三、第四号証、」を挿入し、同一三行目の「原告本人尋問の結果」の前に「当審証人末吉一仁および同出口敏郎の各証言ならびに」を挿入する。

4  原判決一〇枚目表四行目の「左膝関節の」から同七行目末尾までを次のとおり改める。

「植皮により両側大腿部に醜い瘢痕が残り、さらに、左膝関節が皮膚欠損、組織拘縮により届曲の運動方向に約三〇度の運動機能障害が残つたところ、この膝の屈曲機能障害は、健側(右)屈曲一五〇度に対し、患側(左)屈曲一二〇度であつて、八〇パーセントの機能障害にとどまり、四分の三の領域に達しないものであつたため、これは自賠法施行令別表に定められた後遺障害に該当するものとはされず、左右両大腿部の各醜状瘢痕の範囲が広いことによりそのいずれもが同一二級に相当し、この左右二つの後遺障害等級を併せて、さらに一級繰上げて、一一級に該当するものと認定されたものであることが認められる。」

5  原判決一〇枚目裏八行目冒頭から同一一枚表四行目末尾までを、次のとおり改める。

「それは左膝関節の屈曲機能障害によるものではなく、左右両大腿部の醜状瘢痕によるものであり、被控訴人の職業の性格上右醜状瘢痕は労働能力の喪失の原因とはならないものであることは多言を要しない。しかし、左膝関節の屈曲機能障害は、その程度が自賠法上のいわゆる後遺障害の等級に達しない軽微なものであるとはいえ、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は、板金加工の仕事上屋根に登つたり、足場に乗つたりする必要がありその際には左膝関節の屈曲機能障害のため負傷前と同程度には稼働しえない状態となつていることが認められ、これの反証はないから、被控訴人の板金加工という職業の特質に鑑み、その他諸般の事情を斟酌し、少くとも労働能力の一〇パーセントを喪失しているものと認めるのが相当である。そして、この左膝関節の屈曲機能障害が将来軽快して行くものと認むべき特段の証拠のない本件においては、就労可能年数の全期間に亘り右の労働能力の喪失が継続するものとして逸失利益を算出するのが相当である。右の逸失利益は、昭和五三年賃金センサスの全男子労働者の年間平均賃金三〇〇万四七〇〇円を基礎とし、被控訴人が六七歳に達するまで三九年間就労可能なものとし、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、その現価を求めれば、別紙(一)記載の算式のとおり金五一一万三〇〇〇円となる。」

6  原判決一一枚目表九行目冒頭から同裏七行目末尾までを次のとおり改める。

「(五) 被控訴人は自己の権利擁護上弁護士に委任して本件損害賠償請求の訴訟を提起・追行しているものであるから、事案の難易・請求額・認容された額その他諸般の事情を勘案すれば、右弁護士費用のうち少くとも金八〇万円をもつて本件事故と相当因果関係ある損害と認められる。

六 右各損害合計額は、金一〇七二万四五八二円となるところ、被控訴人が控訴人西鉄から金九七万五〇〇〇円の賠償金の支払を受け、さらに、自賠責保険金二二四万円を受領したことはその自認するところであるから、控訴人らは、連帯して、被控訴人に対し、右損害合計額から右受領額を控除した残額金七五〇万九五八二円及びうち弁護士費用を除いた金六七〇万九五八二円に対する事故発生の日の後である昭和五三年三月二八日から、弁護士費用金八〇万円に対する原判決言渡の翌日である昭和五五年一〇月三〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。」

二  そうすると、被控訴人の本訴請求は、控訴人らに対し右の支払を求める限度において理由があるものとして認容し、その余は理由がないとして棄却すべきものであるから、これと一部趣旨を異にする原判決は変更を免れない。

第二  控訴人西鉄の民訴法一九八条二項の申立について

一  被控訴人が、控訴人西鉄主張のとおりの金額の支払いを命じた原判決の仮執行宣言に基き、昭和五五年一〇月二九日金一〇六九万九六九〇円を強制執行により控訴人西鉄から取立てたことは当事者間に争いがないところ、被控訴人の本訴請求は本判決主文第一項記載の限度において理由があり、その余は失当であつて、原判決は変更すべきものであることは、本訴請求におけるのと同様の説示で認定判断できるから、控訴人西鉄の本件申立は、別紙(二)計算書記載のとおり、右取立額のうち金二三二万〇六二〇円およびこれに対する取立の日である昭和五五年一〇月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余は失当であるから、棄却すべきものである。

第三  以上のとおりであるので、控訴人らの控訴に基き原判決を主文第一項のとおり変更し、また控訴人西鉄の民訴法一九八条二項の申立については、被控訴人に対して、主文第二項1掲記の金員の支払を命ずるとともに、控訴人西鉄のその余の申立を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条九二条本文九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松村利智 金澤英一 寒竹剛)

別紙(一)

逸失利益算出の算式

3,004,700円×10/100×17.017=5,113,000円(但し、千円未満四捨五入)

別紙(二) 計算書

(1) 被控訴人の取立額 10,699.690円………………(A)

(2) 当審認容額に基く 昭和55年10月29日において

取立うべき額

<省略>……………(B)

(3) 回復を認めるべき額

(A)-(B)=2,320,620円

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